« 2008年1月に読んだ本 | Home | 紀文フードケミファがキッコーマンの完全子会社に »
長谷川滋利『適者生存—メジャーへの挑戦』
オリックス・ブルーウェーブ、アナハイム・エンジェルス、シアトル・マリナーズで活躍し、2005年に引退した長谷川滋利元投手が、マリナーズの現役時代に出版した作品です。
この本では、長谷川投手がメジャー挑戦の中で経験した試行錯誤の数々が紹介されています。日本のプロ野球でも活躍していたとは言え、例えば伊良部選手や野茂投手ほどの存在感を見せなかった長谷川投手が、“メジャーに最も適応した日本人投手”という評価を確立した理由が本人によって語られます。タイトルにもある“適者生存”——適応(アジャストメント)して生き残る——の秘訣として、(1)自分の欠点を見つけ出す、(2)正しい対策(処方箋)を組み立てる、(3)それを実行する、という三段階のステップが必要だと本書では指摘されています。この3つのステップだけを見ると拍子抜けするかもしれませんが、世界最高峰の舞台で生き抜いた同投手が述べているのが面白いところだと思います。プロ中のプロの舞台というのは、どれだけ相手を上回れるかという“勝者のゲーム”の要素があると同時に、どれだけ付け入られる弱点を減らすかという“敗者のゲーム”の要素もあり、弱点を埋めるプロセスを愚直に続けることが上位に生き残る秘訣というのも興味深いところです(もちろん、長谷川投手にそれだけの才能があったのも確かです)
もう一つ面白いのがプロ野球とメジャーの選手育成方法の違いの箇所です。メジャーというと個々の選手の個性を重視し、結果的に打席での構えや投球フォームの変わった投手が多いという指摘があります。日本の一般的な論調では、メジャーの育成方法の方が圧倒的に優れているということが多いのですが、長谷川投手は必ずしもメジャーばかりを持ち上げてはいません。これらの個性はコーチが選手に極度に介入しない結果であり、全体練習も強制されないことから伸び悩む選手も多いと言います。メジャーの場合は、そこから生き残った選手だけを拾い上げるだけでも成立する仕組みになっているからこそうまくいくのであり、メジャーと同じだけの才能の求心力のない日本のプロ野球では同じやり方ではうまくいきません。一方、日本では才能のない選手でも丁寧に教え込み、それなりに活躍出来るレベルまで引き上げる努力を行いますが、逆にコーチがいじりすぎて選手を駄目にしてしまうケースもあります。昨今の社会的な教育問題にも通じる深い含蓄を持った指摘だと思います。題材は野球ですが、外部環境への対応などの点で多くの示唆を与えてくれる優れた作品だと思います。
